俳句書籍紹介 ― 主に俳句の本を中心に紹介していこうかと思ってるんですけどねー。 ―
万太郎の一句
題名 | 万太郎の一句 (365日入門シリーズ) |
著者 | 小沢実 |
出版社 | ふらんす堂 |
発売日 | 2007年5月 |
価格 | 1800円 |
この本は1日1句久保田万太郎の俳句を取り上げ、365日解説していくという内容の本である。
久保田万太郎。まんたろう、まず名前がよいではないか。そして、俳句史からスポイルされているところもカッコいい。
巻末の小論より
「久保田万太郎の俳句は現在でも人気が高く、多くの愛読者を獲得している。しかし、俳句史における評価はその実質ほどには高くないと思われる。(以下略)」
著者の小澤實はこのように書いている。これは、蒙昧の会にとって重要な示唆を与えている、ように思う。
万太郎人気の秘密はこの人の「いき」にあると思う。(息ではなく、い・き )
万太郎は「いき」な人であった。この本を読むと、万太郎の「いき」なひととなりがよく分かる。
(ちなみに、九鬼周造著『「いき」の構造』岩波文庫刊行という名著があって、わたしはまだそれを読んだことがないのだが、ぜひ読みたいと思っている。)
いま現在、現代日本に足りないのは「いき」ではないだろうか。風流を解するという行為が足りて、いない。
蒙昧の会はそれを取り戻す作業ともいえる。
たとえば日本人はみんな俳句を自分の肩書きにするというのはどうだろう。
名刺にかならず好きな俳句を入れておくとか。戸籍謄本に自分の一句を書いておくとか。
そんな風にして「いき」を取り戻してみては如何。
万太郎の「いき」に学ぶべきことは多い。
以下、わたしのお気に入りを列記。
双六の賽に雪の気かよひけり 万太郎
竹馬やいろはにほへとちりぢりに
淡雪のつもるつもりや砂の上
叱られて目をつぶる猫春隣
東京の雁ゆく空となりにけり
春火桶たがひにうそをつきにけり
ほそみとはかるみとは蝶生れけり
”Non-ta”とは”ねえ、あなた”なり春暮るる
パンにバタたつぷりつけて春惜しむ
みじか夜やおもひおもひの椅子の向き
この恋よおもひきるべきさくらんぼ
朝からのいひあらそひや夏の雲
うすもののみえすく嘘をつきにけり
夕空のまつたく澄めりさるすべり
わたくしの死ぬときの月あかりかな
柊の花や空襲警報下
飲めるだけのめたるころのおでんかな
鍋に火のすぐきいてくるしぐれかな
寒き灯のすでに行くてにともりたる
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり
ふぅ。たくさん書き出してしまった。
お手持ちの歳時記に載っている万太郎を気にしてみるのもいいかもしれない。
では最後にわたしの稚句で〆。
万太郎三度唱えし夜は長い 虹鱒
歳時記・にほんの行事
題名 | 家族で楽しむ 歳時記・にほんの行事 |
監修 | 近藤珠實 |
出版社 | 池田書店 |
発売日 | 2007年12月 |
価格 | 1365円 |
いきなり俳句の本を手に取るというのは相当なモチベーションが必要だ。
全く俳句に関心のない人に、俳句のちょっと手前まで来てもらうにはどんな本が良いのかと考えていた。
この本は書店の俳句のコーナーで見つけたわけではない。
エコ、ロハス、暮らし。そういうコーナーで見つけた。
とにかく絵が良い。家族で楽しむの謳い文句は伊達じゃない。
中身は知らないことばかり。面白い。
俳句も載ってるけど、ほんの少し。
まずはそれで正解だと思う。
楽しく読んで、季節に興味を持ってもらえたら、もうしめたものだ。
「全然知らない」から始める俳句入門
題名 | 「全然知らない」から始める俳句入門 |
著者 | 編著土岐秋子 監修金子兜太 |
出版社 | 日東書院本社 |
発売日 | 2008年5月 |
価格 | 1260円 |
ハマグリ君とタコ先生のやり取りでやさしく俳句を教えてくれてる、良い本。
俳句が良くわかんないという全くの初心者なら、この本で間違いないと思う。
中身はゆとりがあって読みやすいのだが、「全然知らない人へ」という本の意図から考えるとまだまだ厚い気がする。
30日で俳句が出来るという設定の本だったが、14日くらいの分量で丁度いいのでは。
金子兜太先生の本はまず間違いがないのだが、
結局俳句とはなにかということを一言で表せていない。
沢山の説明でなんとなく分かった気にさせられて何もわかってないのでは、
他の入門と本質的な違いはない。
俳句を一言で。そんなのはまぁ無理だ。
その無理を可能にしてしまう期待を兜太先生には抱いてしまう。
100年俳句計画
題名 | 100年俳句計画 五七五だからおもしろい! |
著者 | 夏井いつき |
出版社 | そうえん社 |
発売日 | 2007年8月 |
価格 | 1260円 |
俳句を全く知らない人に俳句の面白さを伝えるのは、なかなか思うようにいかないもの。
作者の夏井さんは全国の小中高生を対象に俳句教室をひらいている人。
知らない人に教えるプロだといえます。
先人の句の「上五」を隠して五択クイズにしたり、
季語を並べて季節を当てさせたり、まず関心を持たせるという工夫に頭が下がる。
「南風」+「なにか気持ち良いこと12文字」
上記の式のように当てはめていけば句はできる。
俳句の入り口としては最適だ。
俳句ワークショップを試みる蒙昧の会にとっては読む価値のある一冊です。
名句即訳芭蕉
題名 | 名句即訳芭蕉 俳句の意味がすぐわかる! |
著者 | 石田郷子 |
出版社 | ぴあ |
発売日 | 2004年8月 |
価格 | 1800円 |
教科書にのるような俳人の句で、すげぇなと思う句はあれど、どれもこれも解るかと言われれば、解らんものの方が多い。
この本は芭蕉の俳句の横に意味とか注釈が書いてある。
句を読んで隣の意味を知るという解凍する読み方と、
伝えたいことがあって、それをどうやって五七五に表現したのかという圧縮の読み方がある。どちらも大事かなと。
ただ、俳句は想像する楽しみがあり、句の訳はその楽しみを限定するものでもある。そこんところを承知した上で読むべし。
芭蕉の他に蕪村の即訳もしている。石田さん、一茶も頼む。
俳句歳時記 合本
題名 | 俳句歳時記 合本 |
著者 | 角川書店/編 |
出版社 | 角川書店 |
発売日 | 1997年5月 |
価格 | 2,415円 |
句会に行くなら、歳時記はないとつまんない。かといっていきなり句会に歳時記買っていくほど本気じゃない。
そんな時は、季節別の文庫を買うか(誰か季節別の文庫歳時記レビュー書いて!)図書館で借りてくればいい。
それで、よし俳句を続けようと腹をくくった時にオススメなのがこの角川の歳時記。これがあれば、まず大丈夫。
角川書店は角川源義という人がおったてた会社で、角川源義は俳人です。息子の春樹も俳人です。
そこからしてもう、半端な歳時記作ろうもんなら春樹に斬られますからね。気合が違うと思う。
ラインマーカーズ
題名 | ラインマーカーズ The best of Homura Hiroshi |
著者 | 穂村弘 |
出版社 | 小学館 |
発売日 | 2003年6月 |
価格 | 998円 |
現代俳人にスターはいないが(謙遜)、
現代短歌にはホムホムがいる。
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな
」
ねむりながら笑うおまえの好物は天使のちんこみたいなマカロニ
サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい
「自転車のサドルを高く上げるのが夏をむかえる準備のすべて」
試合開始のコールを忘れて審判は風の匂いにめをとじたまま
本書より
私は俳句以前以後も含めて、同時代の詩歌では間違いなく穂村さんに一番影響を
受けています。
手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)
という歌集のタイトルは俳句だと。一回り上の友人が言っていました。
この「ラインマーカーズ」はベスト版なので、最初にオススメ。
装画は大竹伸朗氏のライン描き。
夜露死苦現代詩
題名 | 夜露死苦現代詩 |
著者 | 都築響一 |
出版社 | 新潮社 |
発売日 | 2006年8月 |
価格 | 1680円 |
言霊、そいつの存在を信じてしまいそうになる、はぐれ現代詩非尋常派。
それらが一堂に会したこの世の裏面見本市。
前に読んだ漫画「陰陽師」での安倍晴明のセリフ
「名前は『呪』である」はまさに呪のように印象的だった。
名前は曖昧で不安定なモノを縛りつけ固定する呪縛なのですかね。
言葉を紡ぎ物事や自分自身を表現する事は
片っ端からそれらに名前をつけていくようであり
事象を「自分のもの」にするべく呪いをかけてるのかもしれない。
いやむしろ錬金術?
文字を組み合わせて言葉を作り、さらに言葉同士を組合す、
色々とり混ぜたりそぎ落としたり並び替えたり韻を踏んでみたり。
そうやってできたものは、単なる記号・業務連絡・陳腐の集合体として使い捨て
される。
けれども時折、人の目、耳、心を捉えて離さない言葉が生成される事がある。
形式に囚われることなく生活/現実に根ざした言葉。
この世には存在しない妄想なのに何故だか妙に説得力のある言葉。
詩を作ろうと思ってやったわけじゃなく生み出されてみたらそれが「詩」だった
言葉。
まるで、呪い/魔法が作用し、土くれが金になり金が土くれになるような貴重さ。
precious プレシャース!(歌葉風)
「第5章 死刑囚の俳句あるいは堀の仲の芭蕉たち」での
「つばくろよ鳩よ雀よさようなら」「綱よごすまじく首拭く寒の水」 が印象深
い。
哲学ってなんだ
題名 | 哲学ってなんだ 自分と社会を知る |
著者 | 竹田青嗣 |
出版社 | 岩波書店 岩波ジュニア新書 |
発売日 | 2002年11月 |
価格 | 777円 |
これは哲学の本である。
そんなこと、書かなくてもわかる。タイトルに書いてあるから。
でもそれは、本当に分かってるのだろうか?という思考を学ぶ、本である。
もちろん、俳句のことは一切書いていない。文学については少し書かれている。
わたしなんかは、俳句を文学にしたいと思って俳句を作ったりしてるけど(でもそれは上手くいかないことのほうが多い)、それ以前に純粋に「句会」とは、なんておもしろいんだろうと思って、蒙昧の会をやっている。
それで言いたいのは、句会とはなにか、句会のおもしろさとはなにか、がこの本には書かれている(それから、BOX という場の意味も書いてある)ということ。俳句のおもしろさではなく、句会のおもしろさがここに書いてある。
わたしの考えていることの100倍の密度のことがこの本には書かれている。
だから、蒙昧の会の代表として、この本を読んでみて欲しくて、とりあげました。もちろんわたしも、この本からスタートして考えていきますが、とにかく100倍のことが書いてあるので、読んだ方が絶対に早いと思ったのです。
わたしは、気がついたらほとんどのページに付箋を貼っていたんです。
みなさんも是非!
ショートソング 1
題名 | ショートソング 1 |
著者 | 小手川 ゆあ 画 枡野 浩一 原作 |
出版社 | 集英社 |
発売日 | 2007年9月 |
価格 | 530円 |
ショートソング。訳すと短歌。短歌の漫画って珍しくて手に取りました。
もともとは枡野浩一という歌人の書いた小説です。
マラソンの給水地点のように所々エロがちりばめられてげんなりです。
短歌というマイナーな題材を扱うには、
これほどまでにサービスしないと青年誌で連載できないのだなと切ないものがこみ上げてきます。
2巻の終り方も強引なので、一つの作品として見るとあまり評価できませんが、
現役の歌人達の短歌に触れることができるので、
入り口としてこの漫画がはたす役割は少なくないと思います。
作中、歌会の場面があり、句会経験のある人は比べて楽しめるかもしれません。
この本を読むと、一時的に五七五七七のリズムが抜けないので、
句会の前に読むのはやめましょう。
まっすぐな道でさみしい
題名 | まっすぐな道でさみしい―種田山頭火外伝 |
著者 | いわしげ 孝 |
出版社 | 講談社 / モーニング |
発売日 | 2003年7月 |
価格 | 540円 |
種田山頭火という俳人の漫画。
この主人公、ダメ人間である。ろくに勉強もせんと大学を中退。
実家に戻り家業を手伝うも、遊びほうけて破産。
夜逃げ。新天地で店を出すが妻子を捨てて東京に行っちゃう。
まぁ、漫画なのでうまく包んで描いてあるけど、
実際にこんな人が家族にいたらいやだ。
このダメっぷりが、こと俳句に関しては良い方に働いているのかもしれない。
俳句に馴染みのない人でも、山頭火の句は俳句らしい俳句でもないので楽しめる。
この漫画大して人気もなかったのだろう。
一巻はよく見かけるのだが四巻や五巻になると滅多にない。
四巻までなら部室に寄贈したので、機会があれば読んでみて下さい。
俳句の花図鑑
題名 | 俳句の花図鑑 季語になる折々の花、山野草、木に咲く花460種 |
著者 | 復本一郎/監修 |
出版社 | 成美堂出版 |
発売日 | 2004年4月 |
価格 | 1,785円 |
歳時記などを読んでいますと、花の句がよく出てきます。
私のような花に詳しくない者からしますと文字からその花の雰囲気を推測するより他ありません。
画も浮かばない花の名前を自分の作る句に盛り込むのはどうも気がひけて。
極力、花の句は詠まないように避けてました。
そんなわけで、図鑑と歳時記が一緒になってる本はないかなと探していたところ見つけたのがこの本です。
花は、季節ごとにまとめられ咲く順番に読むことができます。名前さくいんは勿論のこと、花色別さくいんまでついているのが親切。
だいたい一ページに二つの花が紹介されています。梅や桜などのスーパースターになると、4ページ占めることもあります。
どこに分布して、葉や茎の特徴はこうで…という図鑑的な情報もきちんと入ってますけど、
私はそういった小難しいことは後回しにして、単純に花の写真を見てその花を詠んだ句をいくつか読んで楽しんでいます。
じゃあこれを読んで花の句がめきめき詠めるようになったかと訊かれると弱ります。
読んで楽しむ分には良いですが、あくまで歳時記を補う参考資料程度に考えておいた方が良いでしょう。
■歳時記・にほんの行事 |
■「全然知らない」から始める俳句入門 |
■100年俳句計画 |
■名句即訳芭蕉 |
■俳句歳時記 合本 |
■ラインマーカーズ |
■夜露死苦現代詩 |
■哲学ってなんだ |
■ショートソング |
■まっすぐな道でさみしい |
■俳句の花図鑑 |
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