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第8屁「ゾンビの古時計」


先日、シート式のオルゴールを買いました。絵巻の様な横長のシートには楽譜の五線譜が20音階分、つまり20本の横線が弾いてあります。その上に付属のパンチで穴を開けると、これが音符を意味します。このシートをオルゴールの中に入れ、手で小さな棒を回すとメロディーが流れるという仕組みです。僕はまず適当に、あてずっぽうで穴を開けてオルゴールに演奏してもらいました。でもその話はまたあとで。今日は「大きな古時計」についてです。全く穴の開いていないシートの他に、ひとつだけ最初から穴が開いているシートがあり、それは名曲「大きな古時計」でした。おじいさんが生まれた朝に買ってきた大きな古時計。おじいさんが亡くなってしまった今、悲喜こもごもをともにした時計もまた動かなくなってしまった、という曲ですね。オルゴールの奏でるその曲は、切なくて美しい旋律でした。ふぅ、いいなぁ名曲。いい響き。そう思った次に、私はなぜかシートを逆さまにしてオルゴールに入れたらどうなるかな、と考えたのです。要するに、楽譜を逆さまからたどるということです。やってみるとやっぱり切なくて美しい旋律。名曲は逆さまから演奏しても名曲なんだなぁ、と感心している私の頭の中に現れたのは、お墓の中から蘇るおじいさんの姿でした。分かるよね。曲を逆からたどるということは、死んだはずのおじいさんが甦るということなのです。時計の針も逆に回り出します。

今回はそんなおじいさんの災難についてお話したいと思います。


「ゾンビの古時計」

おじいさんはお墓から甦ってしまった。ナントカという秘密組織がなんとかウイルスをどうたらこうたらで街に撒いて、ゾンビになってしまったのだ。なんて迷惑な話だろう。おじいさんはゆっくり眠っていたかったのだ。やることもないのでひとまず家に帰ることにする。あの大好きな古時計を磨いて思い出にでも浸ろうか。

歩き出してはみたものの、やんなっちゃう。ため息が出る。どうしてこんなにゆっくりにしか歩けないんだろう。足を引きずって。腐ってるし。しょうがない。でもなんで両手を前にだらんと突き出さなければならないんだろう。疲れるわ。ため息がでる。「ヴヴヴ」。変な声しか出なくてさらに気が滅入る。

途中、暗がりでいちゃついているカップルがいたのでなんとなく女を噛んだ。いらいらしていた。誰でもよかった。女はゾンビ化して男に襲いかかる。男は逃げようとしたが膝まで下ろしたジーンズに足を取られて派手に転び、噛まれてゾンビ化した。おい、ゾンビになったからってすぐに洋服をぼろぼろに汚すのははしたないからやめなさい。若者め。お前らはショッピングモールにでも行けばいい。腕がもげた。

と、その時、赤いジャンバーを着た若い黒人のゾンビが飛び出して来た。有名な歌手じゃないか。たくさんのゾンビを従えて、やたらキレのあるダンスを私に見せつけて、歌いながら時折雄叫びをあげる。このファンキーなリズムは一体どこから聞こえてくるんだ。同じゾンビだというのにこの差はなんなんだ。不公平じゃないか。


Michael Jackson- Thriller(you tube)

(全部いいけど8:00ぐらいからがみんなでダンス)


あぁ なんていやな気分だろう。気持ちがざわざわして落ち着かない。とにかく家に帰ろう。孫が私を見たら何て言うだろう。驚くだろうなぁ。手土産のひとつもないなんて。頭がぼんやりしている。何かを考えようとするのだが考える先から言葉が消え、まとまらない。寄せては消える波のようだ。前後が途絶えてしまい、なぜ今こんなことを考えているのだろう、と考え、なぜ今こんなことを考えているのだろう、と考える。ただひとつ言えることは、生前とたいして変わらないということだ。ざわざわして、ぼんやりして、うめきながらずるずる歩くといつのまにか我が家の前に立っていた。あぁ何て説明すればいいんだろう。しゅわしゅわする頭の中では浜辺の波間に妻が裸足だった。ドアノブにゆっくり手をかけた。すべるノブ。ギィィィー ガチャ。「ただいまー」。「ヴヴヴ」。孫はゾンビになっていた。

最高に気が滅入る。かわいい孫たちをはじめ、家族は皆ゾンビになっていたのだ。なんとかという秘密組織がなんとかウイルスをどうたらこうたらで街に撒いたせいで街中にゾンビが溢れているのだ。正義のヒロインは今ごろ、表向きは世界平和的イメージの一流企業の社長や、悪い最先端の研究者たちとびしばし戦っているのだろうか。高層ビルみたいなところで。もしかしたらショッピングモールにたてこもっているかもしれない。そして正義のヒロインも実は最先端の生物研究から生まれた存在であることに気づいてショックを受けたり、生物兵器化したかつての恋人と戦ったり、爆発したり、悪い社長が高いところから落ちたり、映画を見ているはずの観客がいっせいにカメラの方を振り返るとゾンビ化していたりするのだろうけど、私には一切関係ない。映画は終わるが生活はつづくのだ。若者よ。足がもげた。

私はこの最悪の気分を鎮めるため、お気に入りの大きな古時計を磨いて愛でることにする。きゅっきゅっきゅっ。はぁぁ落ち着くなぁ。きゅっきゅっきゅっ。いいわぁこのヴィンテージ感。すると突然、古時計がジ、と鳴った。・・・ジリ・・・リ・・・リリリ・・・ジリリリリリリリリリリリリ!!わぁぁぁ 五月蝿(うるさ)い! ブゥゥゥゥゥー・・・ンンン。文字盤から不気味な音がして見ると、時計の針がすごい速さで逆回転し始めている。ゾンビだった私はすごい速さで普通のおじいさんになり、初老になり、中年になり・・・どんどん若返っている。一瞬気分がよくなってラッキーって思ったんだけどまずい、このままでは受精卵まで戻ってしまう。やばい!と思って近くにあった家電クイズ大会準優勝のトロフィーを時計に叩きつけた。バァァァァァァーーンンン!!!時計が爆発し吹き飛んだ。その影響で火災が起き、塵が舞っている。たちこめる煙の中から現れた私の肉体は20代の引き締まった健康的な身体で、なぜか裸で、うまいことアソコが隠れている。月灯りが窓からななめに射し込み、ちぎれたカーテンが揺れていた。私は若い肉体を取り戻した喜びを感じて一瞬気分がよくなってラッキーって思ったんだけどまずい、この家には家族のゾンビがいるし、街中もゾンビで溢れかえっているのである。残念ながら私は家電に関する知識しかないし、目も悪い。窓をバッシャァーン突き破って正義のヒロインが助けに来てくれないかなぁ。私はおもむろに足元に落ちていた時計の長針を拾い、右の眉毛につけ、短針を左の眉毛につけた。あの有名な黒人ミュージシャンのように時折雄叫びをあげ、踊り出した。悪くない。まぁまぁキレもある。激しく踊る。気が滅入る。さらに激しく踊る。気が滅入る。早く「END」って出ないかな。もしくはカットって聞こえないかな。時給でいいから。


これでこの話はおしまい。なんかごめんね。時間を無駄にさせちゃったでしょ。気持ちがこもってない? うん、まぁそう。あ、でも少しは悪いなぁと思ってるよ。僕も大人だからさ。そういうの?気づくじゃん。そうそう、さっきの話だけど、適当にあてずっぽうでシートに穴を開けてオルゴールに演奏してもらったら、いい感じだったよ。たぶんオルゴールで演奏してもらうとだいたいいい感じになるんじゃないかな。何も起こらないけどね。だいたい全部いい感じに響いて、何でこんなに何も起こらないんだろうって逆に?逆に?思うわけ。

エンディング・ナンバーはこちら。

I Want You Back ? The Jackson 5(you tube)